一生のお願い

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数日間だけの甘い日々が、 胸に残って、 涙が止まらない。 僕は昔から病弱で、色が白かった。 だから戦争には行かずにすんだ。 でも、最近知り合った彼は行ってしまうみたいだ。 「……山崎君?」 その彼が僕の顔を覗き込みながら僕を呼んだ。 我に返って、目の前の笑顔を見つめる。 糸目の彼は、とても穏やかだった。 「戦争なんか嫌だね。」 きっと誰かに聞かれたら「お國に背くのか」と攻撃をされそうだ。 僕と彼だけの世界。 僕は小さく頷いた。 「…あと、6日で行かなくちゃ。」 「特攻?」 「そう。」 特攻に行って帰って来た者はいないと聞いた。 不安だった。 「一世も…帰ってこないの?」 「どうだろうね」 空を見上げて呑気に答える彼を見ていると安心する。 まだここにいるんだって。 「山崎君のために行ってこようかな。」 「…ばか。」 僕の肩を抱き寄せる彼。 あたたかかった。 「…帰って来たいな」 「………」 答えられない。 「一世、」 「なぁに?」 「…一生のお願い。」 彼の衿を引き寄せる。 「接吻…してほしいんだ。」 「俺と?…いいよ」 ゆっくりとその糸目が近づく。 僕は 目を閉じた。 静かに触れた唇は柔らかくて気持ち良かった。 自分の心臓が制御出来なくなっていた。 「…これでいい?」 一世はゆっくりと唇を離して笑顔でそう言った。 僕はきっと朱いであろう顔をして頷く。 「俺なんかで…よかったのかな」 「一世が良かったから…」 「そう、ありがとう。」 心臓が止まらない。 一世が直視できない。 「ねぇ、山崎君、」 「…なに、」 「俺の一生のお願い、聞いてくれる?」 僕は頷いた。 「…俺の、恋人になっていただけませんか?」 驚いて見つめた顔は相変わらずの糸目で、それでも真剣なのだけはわかった。 高鳴る胸。 決壊しそうな心臓を抑えながら、 僕は本日何度目かわからないままゆっくりと頷いた。
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