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その日から、「数日間だけ」の交際が始まった。
一世と一緒にいると僕は僕じゃ無くなるみたいで、鼓動が早い。
これは病気?なんて思ってみたけど、恋は恋。
ある意味一種の病気なんだろうけど、治療策は見つからないみたい。
「山崎君、」
いつものように呼ばれる。
彼と目が合うたび心臓が速くなって息苦しくなる。
「…なに、」
「今日の夜、暇かな?」
「………うん。」
「じゃあ、8時にここね。」
「うん…っほごほッ!」
「大丈夫?」
戦争で薬が足りなくて僕の病気は少し悪化していた。
「大丈夫…一世といれば、苦しくないよ」
「ほんと?」
「うん…」
「嬉しいよー」
「ぅわっ」
いきなり抱きしめられて僕の心臓は準備が出来ていなくて一気に高鳴る。
僕よりも幾度も高い体温は心地いい。
「山崎君顔朱いよ」
「だっ、だっ、だっ、」
だって一世が、って言いたかったのに言葉が出てこない。
一世はお構いなしに僕の頬にくちづける。
「っ…一世…」
だめ。
心臓壊れる。
「…じゃ、今日8時に。」
「あ、うん…」
解放されて一人分の体温が失われたことを寂しく思いながら、
遠くまで歩いて行った彼に小さく手を振った。
空はまだ明るい。
夏は日が長いから。
8時にさっきの場所へ行くと、一世はもうそこにいた。
「待った?」
「いや…俺が早く来過ぎただけだからね」
一世が笑う。
一世の笑顔は本当に安心する。
「じゃあ…行こうか。」
何処へ?と言いたそうな山崎君の方を向いて、「俺ん家」と言った。
「お邪魔します」
「俺しか住んでないから大丈夫だよ」
「どうして?」
「んー…特攻に行くからー…決断出来なくなるのが嫌だったから、かな」
家族から離れたかった。
寂しくならないように、
未練を残さぬように。
「山崎君だけが未練かな。」
「…ばか」
あと数日。
数日で彼はいなくなる。
…会えなくなる。
「…大丈夫、手紙だすから。」
「…うん」
下を向いて話さなくなった山崎君を心配して、俺は切り出す。
「こっち、きて?」
山崎君を寝室に呼んだ。
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