カップ麺を侮る勿れ

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「あ、今日は少し早いんですね」  ・・・部屋を一歩出た瞬間、ふと横合いから聞きなれた声が聞こえた。 「あ、ああ。今日は少しばかり起きるのが早くて」  声のした方に振り向きながら、私はそう言い会釈する。  そこにいたのは、Tシャツに短パンという健康的な格好をした好青年、隣人の加藤君だった。 「今日も走ってきたのかい?」 「ええ。今年の夏の大会はとっくに終わりましたけど、次の大会は僕の学年が主役になりますから。気は抜けないですよ」  ニッコリと嫌味なく笑う加藤君に、私は羨望の溜息を漏らす。このような充実した青春を、私も送りたかったものだ。 「確か加藤君は・・・器械体操だったかな?」 「ええ、そうですよ。もっと言うならマットですけどね」 「ふむ、暇があれば見てみたいね」 「本当ですか? その時は、是非」 「はは、仕事が無ければ、だから期待しないでくれよ。それじゃ」 「はい、お勤め頑張ってくださいね」  手を軽く振ってくれた加藤君に、また軽く会釈して私は錆びだらけの階段を降り始めた。  加藤君と知り合ったのは入居して二日ぐらい経った頃だったろうか。  ゴミ収集所の場所を大家さんに教えてもらえずゴミ袋を持って右往左往していた私を、彼が手助けしてくれたのが、彼との近所付き合いの始まりだった。  私のような冴えないオヤジと話すのを、普通若い世代というのは敬遠するものだと思うのだが、彼とは到って良好な関係を築けている。  彼の出来た人格に、起因するものがあるのだろうか。
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