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「ばいばい」
目にいっぱい涙をためた和泉が俺の前を去ろうとする。その姿がどうしてか悠也と重なった。
いつかきっと、俺の元を去っていく悠也。今現在、俺の元を去って行こうとする和泉。ここで和泉を行かせたら、きっとが絶対になる気がして、俺は和泉の腕を握った。
さっきとは逆の立場だ。さっきは俺が和泉に腕を捕まれたが、今は和泉の腕を俺が掴んでいる。何を言えば良いのかなんて分からない。だけど、コイツは俺が守りたいんだ、とそう思った。
「一人になるなよ、俺に話せよ!
俺がお前の見方になるから……」
和泉を強い力で抱きしめた。そうでもしないと、俺の腕から逃げていってしまいそうだったから。
「……ひっ、く……、あっくん! あっくん!」
俺の名前を呼びながら、和泉の腕は俺の腰に回った。嫌悪感なんてものは全くない。むしろ、俺を頼ってるコイツを愛おしいさえ思えてきた。
こんな俺を見たら、悠也は酷いと思うだろうか?
俺だけのために泣いてくれるだろうか?
それだったら良いのにな。俺のことを考えて、俺のだけのことで悠也の頭がいっぱいになれば良い。
「和泉……」
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