新任。

10/15
前へ
/30ページ
次へ
「………なぁ、鏡。」 「は、はい。」 やばい。 相手は馨様じゃないのに。 ドキドキしちゃうよ。 名前を呼ばれただけなのに、顔に目を奪われ…声が頭の中をこだまする… ドキドキの音が聞こえるんじゃないか、と不安に思いながら俯くと先生は 「瑠衣。時々、君は必死に手を伸ばしても、僕の届かないところにいるように感じてしまうんだ。君の気持ちが分からなくなってしまうんだよ…」 と言った。 これって… 馨様の台詞じゃ…? 「せん、せ?」 「この瞳。この唇。この首筋。この腕。全て僕の物にしたいのに。」 先生はゆっくりと立ち上がり、馨様のように私の顔や体に触れる。 私は沙耶の台詞を思い出しながら 「か、馨…私にとっても、貴方は手の届かない存在なのよ?触れたくて、触れたくて仕方がないの…」 と、先生の頬に手を添えて、囁くような声で言った。 胸が張り裂けそう。 こんなにドキドキしたのは…初めて馨様を見た時以来だ。 あぁ。この時間がずっと…ずっと続けばいいのに。 そんなことを考えながら、もう片方の手を伸ばした瞬間。 先生は私の気持ちを感じ取ったのか、パッと手を離して微笑んだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加