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川崎修一は、トボトボと人通りの多い通りを歩いていた。
数少ない手持ちの洋服の中でも、彼的には気に入っている薄手のジャケットを着ていた。
ぼんやりと通りを行く人を見やる。
忙しく仕事の電話をしている人などを見ると羨ましくなる。
暇がこんなにもつらいとは思ってもみなかった。
春の暖かい筈の風が彼には冷たく吹き付ける。
桜の花びらがヒラヒラと舞い降りてきた。
「……はぁ……」
しかし、桜の花びらなどには目もくれず、肩をがっくりと落としてため息をついた。
都会に舞う桜の花びらなどは、彼にとって疎ましいとしか表現のしようのない華やかさだった。
それほどまでに、落ち込み。
心の底から疲れていた。
もともと猫背気味な姿勢がもっと猫背になっている。
「とりあえず、住める場所を探さないと……」
ぽつりと周りには聞こえないように呟いてみる。
いちいち言葉に出さなければ前に進むのも面倒だった。
また風と共に花びらが降り注いだ。
ばしばしっと花びらが頬にぶつかる。
疎ましいが、励まされている気もしないでもなかった。
それくらいの元気は残っている。
まったく、人の気持ちも考えないで……。
少し自虐的に微笑むと歩みを速くした。
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