舞散るモノ

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幸い、コツコツと節約をして貯めていたため貯金は新しい仕事を探すまでの間はなんとかなりそうだ。 と、一応希望的観測を持ってみる。 それでも、出来るだけ安いところを探さなくてはならない。 当たり前のことであり、仕事を探すのと同じくらい難しいことだった。 彼は家具など持っていない。 寮には備え付けの家具が置いてあった。 荷物はその程度なのだから引っ越しにお金はあまりかからないはずだ。 持ち物と言えば、最低限の洋服と生活用品、連絡の為の携帯電話くらい。 携帯電話には、学生の時に付き合っていた友人と母親と弟の名前だけが電話帳に入っている。 学生時代の友人に頼るわけにはいかない。 住む場所を提供してくれと頼ったところで「はいそうですか、どうぞ」なんて言う訳がない。 皆大変なのだから。 「1日とか2日とかなら泊めてやるよ」が関の山だろう。 なんにせよ迷惑をかけたくはないし、こんな状況の自分を見られたくはなかった。 とりあえず、雨風がしのげて眠れる場所があればいい。 洞窟でもいいか……。 などと、そんな無茶苦茶な考えがよぎる。 あー、でも、こんな東京の端っこの方の平地じゃあ洞窟なんてないか。 と、目の前に看板がたっているのが目にはいる。 ───入居者募集中。 いかにもサビれたアパート。 人が、住んでいるかもわからない。 こういうところなら安いのかも。 修一はそこに足を向けた。
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