舞散るモノ

6/7
前へ
/42ページ
次へ
「え?」 少しして目の前の扉から出てきた初老の女性は、すっとんきょうな声をあげた。 来客などめったにないのだろう。 化粧っ気のない顔で見事に目を丸くしている。 「えっと……、住んでいる方ですか?」 同様に人が出てくるなんて思ってなかった修一も声が上ずる。 自分で声をかけたくせに変なものだ。 少し心臓の鼓動も早まっている。 目の前の玄関で靴を脱いで上がるらしい。 一段高くなっていて、端の方に12個ほど靴が入りそうな靴箱があった。 その中に何足かの靴がそろえられて入っている。 スリッパは揃えてこちら側から履きやすいよう並べられていた。 人の気配がないなんて嘘だったな、と思った。 「……あ、はい……」 あいかわらず驚きながら、戸惑いながら女性は頷いた。 修一はこれまた、はあそうですか、などどあまり意味を持たないことを口走る。 ぽりぽりとかゆくもないのに頭をかいてみた。 桜の花びらが風に乗って、玄関へ入ってきた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加