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「あ、あの~……
入居希望なんですけど大家さんは……?
あ、いや、でもとりあえず見学だけなんですが……」
修一はしどろもどろになりながら口を開く。
相手は、じっと修一を見る。
その表情は値踏みをするようでも、ただ珍客を眺めているだけのようにも見える。
修一は少し不安になった。
自分は変な格好をしていないだろうかと考えを巡らせる。
幸薄そうなのは置いておいても汚らしくはしていないはずである。
そうは思っているが、じっと見られると相手にどう見られているのか不安になる。
女性は少し首を捻る。
そして静かに口を開いた。
「ワタシだよ」
「え?」
突然変わった相手の声のトーンにすこし驚く。
先ほどまでの探るような表情もどこかに行ってしまったようだ。
友好的なものに変わっている。
さらに実際の時間はどうであれずっと前に発したような感じがする自分の言葉を思い出すのに苦労した。
「ワタシが、ここの管理人で大家でたった一人の住人だよ」
相手はこちらの戸惑いをわかっているかのようにそう付け足す。
にっこりと柔らかい笑みを浮かべてこちらに向かって歩いてきた。
「こんなところにアンタみたいな若者が来るとは思ってなかったよ」
そう言う顔はすこし嬉しそうだった。
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