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――眩い光と、新鮮且つ熱気の籠った空気の匂いで、僕は目覚めた。
僕が眠りについてから、どれだけの時間が流れたのか。それは心底わかりかねるな。時間を知る手段がないんだからね。
「お仕事、お仕事~」
何時もはご主人様が扉を開けるのに、今日は違う人物が、【亜紀子ちゃん】が、扉を開けた。
「亜希子ちゃんや。そんな汚ないことはあんたがしなくても、このばあちゃんがやるよ」
ご主人様が、亜紀子ちゃんを労るように言う。
「ううん。あたしがやる。おばあちゃんは座ってていいよ」
そう言い、屈託のない笑みを浮かべる、僕が敬愛する人物であり、明るくて思いやりの溢れる、少しおてんばで、純真無垢な女の子の、亜希子ちゃん。
けれど心なしか、亜紀子ちゃんが発した「やる」という言葉が、「殺る」という響きに改竄されて僕には届くよ。
僕を小さく柔和な手に固く握り、
「えりゃあ。ほりゃあ」
はしたなく、けれど可憐に床を、部屋の中心に置かれた卓袱台の上を、部屋の右隅に置かれた椅子の上を、部屋中を、所狭しと駆け回り、
「ふりゃあ~~」
僕を振り回し、降り下ろし、こと有る事に叩き付け、美々しい顔を綻ばせて、亜希子ちゃんは奮闘する。
「怪我をしないようにね。亜希子ちゃんや」
ご主人様は、おっかなびっくりといった様子でそれを見守っている。
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