井戸のあれ

1/2
前へ
/15ページ
次へ

井戸のあれ

警察に務めて23年… そろそろ足腰も、日に日に目減りして衰えてきた。 そんな田舎の万年刑事の俺はある、少女行方不明事件を抱えていた。 このヤマは、今から6日前の晩に少女が枯れ井戸を覗きこんで、住民の目の前でそこから落ちてしまったのだが… 無論すぐ通報され、非番で近くにいた俺が駆けつけた。 おかしな事に、いくら底をさらっても少女の痕跡、血痕はおろかその子のゲソすら取れない。 かつての水路は、赤ん坊が潜れる程度で、そもそもそんなに深い井戸ではない。 枯れてゴツゴツした底が剥き出しだから大抵はケガをしているだろうに、なんにもでない。 県警に捜査員を増員してもらってもやはり何もない。 と言うより、若い捜査員からベテランまで、どこか諦めた風なところがあって、何度かたしなめた。 すると、「やるだけやりますが…これ、やっぱりあれでしょう?」 とか 「あれは俺達の手に追えないよ、あんたもベテランならわかってんだろ?あれの話は聞いた事位あんだろ?」 なんて言われて、同期のやつにドンマイドンマイと慰められた。 その言い方から察するこれは失踪ではなく、これは拐いだ。 すると、いつの間にか近場で一人、また一人と人が失踪し始めた。 あれだのそれだの、犯人がわかってるなら何故検挙しないんだ。 進言しても上は何も言わない始末だ。 意地でも証拠を掴もうと現場の井戸を調べると、話し声が聞こえる様な事もあった。 小さな水路以外に抜け道があるに違いないと、俺は今も一人、当時に井戸の中へ下ろした梯子を下だり、捜査をしている。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加