きっかけ

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葵は、携帯電話を開いてメールをチェックしていた。今日は何回その行為をしたことだろう。仕事中も肌身離さず、持ち歩き何度も画面を確認している。画面に何も写しだされていないことを確認するといらだたしくまた携帯電話を閉じる。 彼女が待っていたのは、恋人からの連絡だった。 昨日の朝、いつもどおりに連絡を入れていたのに彼からの返信はいまだに届いていなかった。いつもなら遅れながらでも休憩時の時間帯には必ず返信がかえってくるのに、 昨日の昼間も仕事が終わった夜も一度もメールの受信トレイには彼からの返信は入ってこなかった。 (いったいどうしたのだろう?こんなに返事が来ないことって・・・)葵はため息をひとつついた。小さくため息をついたつもりだったがそれは、会議中のテーブルに座る隣の同僚の、真理子に聞こえてしまったらしく。 隣の真理子がこちらを向いて無言で顔を傾げた。葵は横目でそれに気がつくと目でなんでもないと、合図して返した。 今は、月に一回の合同ミーティングの最中だった。葵が勤めるこの会社では月に一回、東海地方と、関西、中国、九州ブロックを担当するスタッフの報告と業務の確認がされていた。 簡単な意見交換と業務報告が今日の議題だったが昨今の不況のため各支店の売上げの業績は下方線をたどる一方だという会社実績の報告がされていた。 特に営業実績を問われることのない会社での立場ではあったが・・・バブル期を経験している彼女たちには信じされない販売実績が発表されていた。 会議に出席しているのは会社の事務方である管理部の部長、課長、主任、そして葵たち管理事務の計、十人である。 彼女たちの仕事は、自分の担当する地域の支店を毎月日別に臨店し、支店の債権状態、金銭管理、商品管理、帳票管理などが会社の規則に沿って正しく円滑に行われているかチェックし、違反があれば指摘し指導するといった、いわゆる会社の監査室のような役割だった。
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