きっかけ

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会議室の机は円卓になっており、メンバーの顔はお互いに見えるように座っていたため。 携帯をさっきからいじっている葵のことを気にしていたのは同僚の真理子だけではなかった。 だらだらと、続けられるスタッフの報告は特に意見を求められることもないので、発表者以外は、時間をもてあましている状態だった。 どこか緊張があるかないかの状態が続く中、時間だけがすぎていっているようだった。時折、報告の中にコンプライアンスに沿わないものが出てくれば、上司である主任以上は忙しく報告書にマーカーを入れたりしながら質問を繰り返している。   その単調な時間を変えたのは、真理子だった。自分の提出した報告書の発表をしている最中のことだった部長が、ある点について質問をした。 「この、支店が毎回報告書にあがってきているが、佐伯君。君はこの支店で何を指導しているのか教えてくれないか?どうして改善されないのだ。」 「この支店についてですが、入居するショッピングセンターのポイントカードに問題があるため、顧客に理解を求めるのが難しいのです。当社の自社ローンを使用している場合と そうでない場合の支払いに差があり、それはは無金利の上にポイントが十倍というものです。 この3月がこの無金利とポイント還元のキャンペーン期間にあたるため支払いの変更が続発しています。」 「どうして、君は支払いの変更ができないことを支店販売員に徹底できないままでいるのだね?もう、かれこれこんな報告書は数年続いているような気がするがね?できない理由を言ってみてくれないか?」 部長が続けて聞いた。右手に持ったピンクのマーカーを指で回しがなら格好の暇つぶしでもできたかのような言い回しだ・・・この後に続く真理子への容赦ない追求が想像できる。 彼はスタッフの中で一番年下の佐伯真理子のことを快く思っていないのか。いつもこのミーティングの席で彼女を追い詰め、叱責するのが常になっていたのがまた始まりつつある。 議場の面々の顔に同じ表情がうかがえた。隣に座っていた私は、目で合図を送った。(真理子、挑発にのったらダメよ・・・相手にならないようにうまく、誤って切り抜けるの) 一番近くにいる私の役目だった。
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