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バスルームを出て二階へ続く階段の横を通り過ぎると、リビングへと続く扉がある。姉が扉の取手をかちゃりと回すと、部屋の中から漂ってきた薫りが鼻をついた。 香ばしい匂いはクロックマダムのものだ。二枚のパンの間にハムとチーズを挟んで焼いたクロックムッシュの上に目玉焼きを盛り付けたその料理は母のお気に入りだ。一週間の朝食に二日は出る料理だから少女はすぐにわかった。 テーブルの方に目をやると、朝の日課でテーブルに着き、ミルク片手に新聞に目を通す父と、家族四人の朝食とミルクをテーブルに並べる母の姿が目に入ってきた。 いつもよりゆったりとしている。何故かそう感じた。見慣れたリビングなのに、と少女は不思議な感覚に陥った。 「ほら、早く朝ごはん食べちゃいなさい」母は既に準備万端の子供逹に微笑んだ。 普段は寝起きが悪く、朝には重い瞼を擦りながら姉に連れられてくる次女が姉を引っ張ってリビングへ入って来た。何より微笑ましく思える光景だ。 「はぁい!ほらお姉ちゃんも早く!」少女は今すぐにでも朝食に飛び付きそうな勢いで姉の手を引っ張りテーブルに着く。 「もう、そんなに急かさないで。お父さん、ご飯食べたらすぐに家を出るの?」妹に微笑ましい気持ちでそう言葉をかけた姉は、椅子に座ると父親を見た。 「そうだな。二人とも支度は済んでるのか?お父さん達はすぐ出れる状態だから、二人が支度を終えてるなら朝食を済ませたらすぐにでも出掛けよう」朝の食卓に響く父親の柔らかい声。 「本当!?じゃあ早く食べて早く色々乗りたい!」 「もう。まだバッグにお財布とか入れてないでしょ?そんなに急がなくても開園まではまだ時間あるから」 妹の元気な声と、姉の慎ましい笑い声は、窓に跳ね返りグラスに張ったミルクの中へと溶けていった。 「そうか。じゃあそろそろ食べようか。お母さん、早く食べ始めないとお姫様にどやされそうだぞ?」 「それは困ったわね?じゃあいただきますしなきゃ」ふっと笑い、母親はそう返すと椅子に座る。
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