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お姉ちゃんだってそう思うよね。少女はすがる気持ちで姉の方へ振り返る。 「仕方ないよ。お昼になればお父さんも一緒に回れるみたいだから今は行かせてあげよう?」 姉は駄々をこねる妹に向かって微笑みを浮かべている。しかし、少女は姉の微笑みの中に微かに浮かんだ複雑な色を感じ取っていた。 そんな笑い方ずるいよ──。姉の表情を見てまで、拒絶を強く口にすることが少女には出来なかった。 口を閉じて拒絶の言葉を飲み込んだ少女はぎこちない笑みを浮かべ「いってらっしゃい」と父親に言うと、ゆっくりと椅子を立ってリビングから出ていった。 「お母さん……頼んだ。昼頃には合流出来る筈だから先に車で行って遊んでてくれ。パスを取れば早いうちから色々と乗って回れるだろう?そうすれば昼頃には少し位機嫌もなおってると思うから」 「わかった。服は?スーツで行くの?」 「部下の話では流石に休日に呼び出して悪いから私服で構わないと言われたそうだが……。やはりスーツで行くか。服は持っていくよ。会社で着替えて……スーツはとりあえず置いてくる」 父親は少女の出ていった扉に目を向けると、罪悪感の混ざった声で今後の事を頼んだ。 「じゃあ早く着替えなくちゃ。仕事早く終わらせてみんなで遊びましょう」と母親は優しい声色でそう父親に微笑む。 両親が揃ってリビングから出て行くと、部屋には姉だけが残った。 「はぁ……。仕方ないよね。私はあの子の傍に居てあげなくちゃ」そう一人呟くと、姉は妹と合わせて二人分の料理を銀のトレイに乗せて落とさないように持って、妹の居るであろう自分達の部屋に向かった。
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