第二章

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少々寂れた団地が建ち並ぶところから少し離れたところにある、嫌味なほど綺麗で高いマンション。最上階から数えて3つ目の階に、豊高の自宅はあった。いつもはジャンボジェットの機体のようにぴかぴかと光って見えるが、この雨の中では全体的に煤けてみすぼらしく見えた。 豊高は憂鬱そうに灰色の雲を背負う建物を、いい気味だとせせら笑い惨めな自分を慰める。 ただいま、も言わず玄関のドアを開ける。 傘は閉じて下駄箱に掛けておいた。フローリングの廊下に足を置くと、自分の靴下がぐっしょり濡れていたことに気づいた。 ぺたり、ぺたりと歩くたびに足跡がつく。 「おかえりぃ」 母親の声が聞こえた。おそらくキッチンからだろう。廊下の照明は点いておらず、キッチンから光が漏れていた。 豊高は母親に応えることなく薄暗い廊下を歩く。
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