第二章

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「ユタカ、晩御飯できたわよお」 母親の声が遠くから聞こえた。 豊高は白昼夢に似た回想から現在へ意識を引き戻される。豊高は返事をせず寝返りを打った。 ーーどうせ 「お母さん、これから用事があるから、食べておいてねえ」 ーーー男のとこに、行くんだろ? 夫の顔色を伺い、息子の機嫌を取り、世間の目に怯える。そんな生活をしていればストレスが溜まらないはずがない。 豊高は少しだけ同情し、安心していた。 哀れな人間が自分だけでないと確認出来たからだ。 今やそうやって自分を慰めることも叶わなくなったが。 豊高は一度、駅前のロータリーで若い男性の運転する車から母親が出てくるのを見たことがある。 一瞬別人かと疑った。 生き生きとした瞳、会話する度に弾む紅をさした頬。 普段とはまるで違う。
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