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「ユタカ、晩御飯できたわよお」
母親の声が遠くから聞こえた。
豊高は白昼夢に似た回想から現在へ意識を引き戻される。豊高は返事をせず寝返りを打った。
ーーどうせ
「お母さん、これから用事があるから、食べておいてねえ」
ーーー男のとこに、行くんだろ?
夫の顔色を伺い、息子の機嫌を取り、世間の目に怯える。そんな生活をしていればストレスが溜まらないはずがない。
豊高は少しだけ同情し、安心していた。
哀れな人間が自分だけでないと確認出来たからだ。
今やそうやって自分を慰めることも叶わなくなったが。
豊高は一度、駅前のロータリーで若い男性の運転する車から母親が出てくるのを見たことがある。
一瞬別人かと疑った。
生き生きとした瞳、会話する度に弾む紅をさした頬。
普段とはまるで違う。
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