19人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の公園。
女の子がブランコに乗っていた。
ぼくが近づいていくと、彼女は突然「月がきれいだね」と言った。
「……月?」
「今夜は冴えてる」
女の子は煙草の箱を出して、慣れた手つきで一本出した。そして火を点ける。
「君も一本どう?」
「……タバコ?」
「そうだよ」
「君いくつ?」
「ん。14歳」
「ぼくと同じだ」
「奇遇だね」
それは冷たい味がした。初めてだったが、咽ることもない。それにこの香りは……
「これは本当にタバコ?」
「いや。普通のタバコとは、ちょっと違うかな」
箱を見せてもらった。
『夜タバコ。まるで夜を喫むような清涼感――星報堂』
「ふーん。聞いたことないな」
「特別だからね」
ふっと煙を吐く。それは蝶になって、夜空をふわふわと飛んでいった。
(……今のは?)
「月絵」
「え?」
「私の名前。君は?」
「令」
「そう。また機会があったら分けてあげる。夜タバコ」
ブランコから立ち上がる。
帰るのかなと思った。
月絵はすこし歩いてから振り向いた。気取った風に、しかしさりげなく片目を瞑る。
Wink!
僕は口からタバコを落とした。
最初のコメントを投稿しよう!