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レタリックタウンで市電を下りた。
青い薄闇に包まれた春の夜に、色つきセロファンを透かし見るような街角がぼくを切なくさせる。
或る店の飾窓の前で、さっき見たばかりの子が佇んでいた。
……月絵だ。
「やあ」
「ああ。令か」
涙を拭きながら月絵は言う。
「こんなとこで、また逢うなんてね。……どうしたの?」
「いや君こそどうした? 泣いたりして」
「ん。なんでかな」
ぐいと涙を拭う。
「きっとお月さまのせいだよ」
言われて見上げれば、なるほど素敵な青い月だ。
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