なかないことり

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*「 」* うつむいて歩いていると めったなものは発見できないが 今日は揚羽蝶の死骸をみつけた 体の方はもうなかったよ 潰れてしまったんだろうね 羽根だけが風に揺れて それはそれで綺麗なんだけれど やはり物体なんだ 息や鼓動が足りないだけで それはもう蝶にはみえなかった 空の奥の方では 何も映らないのに轟音が鳴っていて きっと飛行機がとんでいるんだ なんて、考えるのだけれど 視認もできないそれを 飛行機と確信できるのが不思議でならない あるひとが花の絵を描いて言ったよ 「これは花ではない。」 考えれば簡単なことだ けれどもごく自然に 「これは花だ」と言い切っている あの蝶の死骸も 本当は『死骸』などではなくて 人がそう名付けたからそう呼んでいるだけの 他の何か、何かもっと 意味深いものかもしれない また出逢うことがあったなら 別の名で呼ぶことができるだろうか。あるいは 星座を指さすときのように 探求を満たす心の動きとして 見つめていくことができるだろうか 「これは蝶の死骸ではない。」 死骸ではなくて それは、 、  
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