日の出

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*世界が音を失う夜に* 世界が音を失う夜に。 羽虫さえ息をひそめ まぶたの裏の純粋な闇は 見つめるのも飲み下すのも不毛だからと ただあたりまえに佇んでいる 体温だけが じわじわとたちのぼる 奪われているのは どちらなのだろう つめたい、爪先 身じろぎする物音だけが 遮断された空間に響いている 星の瞬きは遥か 昨夜は泣き虫でそばにいたのに かわりに物言わぬ誰か 迫り来る何かの感覚に 窓をそっとひらく 世界は音を代償に 刃のような清廉さと 母性のようなやわらかな皮膜に包まれ 降りしきる 降りしきる、その空間 瞬間のひとつひとつにも 隙間なく意味を持たせていた 息を殺した私の闇は まぶたの上と下 白く塗りつぶされ、それから 水滴になって消えた 星の瞬きは遥か 嘆いているのか 微笑んでいるのか もうどちらでもいい 冷たい、指先 伸ばしても届かない けれどもたしかにそこに在る 私はここにいる  
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