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何だろう。この気持ち……
胸のドキドキが治まらない。
一目惚れ?
笑わせる。二十歳をとうに過ぎた私が、それなりに恋もしてきたのに一目惚れって。
ウブな中学生じゃあるまいし。
でも……
格好いい人だったなぁ。
そんな事を考えて微笑を浮かべながら歩く私の耳に、後ろから駆けてくる足音が春風に乗って届けられる。
「すみません! ちょっと待って!」
振り返るとそこには、先程の男性が軽く息を弾ませながら立っていた。
「えっと……はぁ……その…………ふぅ」
息を整えた男性は、一呼吸置いて、少しはにかみながら言った。
「あの……もし良かったら、半分こしませんか? これ」
そう言って差し出された男性の右手には、包み紙にくるまれた白い鯛が二匹。
「嫌……ですか?」
「いえっ! 嫌じゃないでふっ!!」
慌てて返答した私は、思わず有り得ない噛み方をしてしまう。
「でふ? ぷっ……あはははっ!」
一瞬、驚いたような顔をした男性は、私の失態を笑う。
その笑い顔すら嫌みのない爽やかさを持っているのだが、当の私はそれどころではなく、顔を真っ赤に赤らめて俯いてしまっていた。
恥ずかしすぎる……
男性は暫く笑っていたが、私の表情に気付き、ふっとその爽やかな微笑みを止めた。
「あぁ、ゴメン。笑うつもりなんてなかったんだ……とりあえず立ったまんまもアレなんで……あ! 飲み物買って来ますね」
硬直している私を気遣ってか、わざわざ遠い方の自動販売機へと駆け出す男性。
これが彼……雅人との出逢いだった。
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