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「ねえ、美咲ー」
ぐいぐいと夏帆に押し迫られて、あたしは思わず夏帆の腕を取った。
「夏帆。いいかげんにしてよ!」
たまりかねて夏帆の右腕をつかんで、頭上にかざす。
夏帆のブレザーの袖がずれて、夏帆の真っ白な肌が目に映った。
瞬間、あたしは夏帆の腕になにやらびっしりと書かれた刻印を見つけた。
タトゥー!?
あたしは、思わずぎょっとした。
高校生でタトゥーを入れることは、普通、禁止されている。
それでも入れる人はいるけれど……。
夏帆が好んで入れるようには、どうしても思えなかった。
「夏帆、その腕……?」
あたしが訊くと、夏帆は露骨にいやな顔をした。
あわてて制服の袖をおろし、凍りつくようなまなざしであたしを見る。
「美咲、なにも見てないよね?」
念を押されると、あたしは、だんだん夏帆が怖くなる。
理由は、わからない。
夏帆の右腕のタトゥーは、決して見てはいけないもののような気がした。
「やだ、美咲。マジな顔しちゃってー」
瞬間、夏帆が腰までの長い黒髪をかきあげて、ペロッと舌を出した。
「birth4、あたし、美咲にも楽しんでほしいだけなのに」
話題を元に戻して、なにごともなかったかのように夏帆が笑う。
困ったときには、頬杖をついて、指の爪を噛む。
いたずらっこのように笑うときには、舌を出す。
見慣れた夏帆のクセも、いまだに馴染めない。
一緒にいる時間が長くなるほど、
あたしの笑顔は、凍りつきそうになっていく。
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