§第1章

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あたしは、涙目になった。 今朝、隼人の顔を見たら、「夜に悪夢を見たの」不安な気持ちをすべてぶつけて、隼人に甘えようと思っていた。 それなのに、顔を見たとたん、隼人を責めてしまう。 あたしったら、いつもこうだ。 「だいたい普通の神経してたら、傘くらい持ってこない?」 「朝は、まだ降っていなかったぞ」 「ウソ、小雨ぐらいは、降っていたでしょ?」 「……おまえって、大バカ」 「さっきはバカで、今度は大バカ? 失礼しちゃう!」 「オレが傘、持ってきたら、帰り、美咲の傘に入れてもらえねぇし」 隼人は、ずるい。 そんなふうに言われると、もう責められない。 いつだって隼人を許してしまう。 クラスは違っても、隼人は、毎朝、必ずあたしのクラスに遊びに来てくれる。 帰りは、いつも廊下であたしを待ってくれている。 そんな隼人のこと、どうしてきらいになれようか。 「ってか、美咲。おまえ、寝相わるいんじゃねぇ?」 「なによー」 「だって、おまえの首に、なんか〝跡〟がついてるぞ」 なにかが食いこんだような、うっすらと浮き彫りになる赤い線。 起きても覚めない悪夢のつづきが、今からはじまるなんて。 あたしは、このとき、知る由もなかった。
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