あの日の記憶

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空き地の中央に立ったモールは、クロを呼んだ。 「家族は、突然の死をまだ受け入れられずにいる。そして、この場所に未練を残しているの。家族と会って。そうすれば、安心して天国へ行けるわ。」 「家族に会えるのですか!?」 クロは喜びで目を輝かせる。 「ほんの少しの間ね。あなたと家族の強い思いが、神様に届いたのかも。」 「でも、僕には人間の言葉が分かりません。僕が何か言っても、人間には通じません。」 「大丈夫。あなたに、人間の言葉が分かるようにしてあげる。私ができるのはここまで。あなたの言葉は人間には分からないから、覚えておいて。さ、ここに来て。」 クロはモールが立つ空き地の中央に来ると、その足下に座った。クロの頭に、モールはそっと手を置く。 「目を閉じて。楽にしてね。」 クロは言われた通り目を閉じる。すぐに「はい。もういいわ」という声がした。 目を開けたクロは驚いた。あるはずのない、家の玄関にいたからだ。ドアにはペット用の出入り口がつけられている。 「あ、ミィだ!ミィ!」 いたずらっ子の陽介くんの声が聞こえる。 ミィ……そう。僕はそう呼ばれていた。 陽介くんはミィを抱き抱えて、台所に連れていく。陽介くんはミィの前足を抱える抱き方をするので、下半身が宙ぶらりんになり、ミィはそれが嫌だった。 しかし、今はそんなことは気にならない。 台所に入ると、旦那さんは椅子に座って新聞を読み、奥さんはチキンの丸焼きを切り分けていた。小百合ちゃんがいないけど、もうすぐ帰ってくるのかな。 「お父さん、お母さん!ミィが帰ってきたよ。」 陽介くんが声を弾ませる。 ここは、家族が火災に巻き込まれた「あの日」そのものだ……
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