あの日の記憶

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「あら、ミィ、ちょうどよかった。チキンを食べる?はい。」 奥さんは、皮のついたチキンの切れはしをミィに与えた。 人間の言葉が分かる!この日は、何か特別な日なのかなぁ?毎年この日だけは、いつもと違う食事が出る。居間に置かれた小さな木の模型には、いくつもの飾りがついていて、てっぺんの星型をしたものがキラキラと輝いていた。食卓の真ん中には一本のキャンドルが置いてあり、火が灯されている。 「あーっ、ミィだけずるい!」と陽介くんがふてくされる。 「陽介たちももうすぐ食べられるわよ。」 チキンを食べながら、ミィは不思議な感覚にとらわれていた。死んだはずの家族が目の前にいる。確か、しにがみは家族の意識が残っているとか、死を受け入れてないと言っていた。ということは、家族は死んだことに気付いてないのかな? 「もう一切れあげるね。」 奥さんが差し出したチキンから香ばしい香りが漂う。 奥さんがチキンをお皿に置いたとき「ただいまー」と玄関から声がした。 小百合ちゃんだ! カバンを玄関に置いて、小百合ちゃんが台所に入って来る。 さっきは、しにがみを小百合ちゃんと勘違いした。でも、今度は本物の小百合ちゃんだ。1年前とまったく変わっていない。あの時のままだ。 「あ、ミィ、チキンもらったんだ。私もいいものあげる!」 小百合ちゃんは、カバンの中をガサゴソと探っている。 「ジャン!友達の家でクッキーを作ったんだ。ミィは気に入るかな?」 小百合ちゃんは紙袋の中から、ラップに包まれた小さなクッキーを取り出す。 「小百合、ミィにお菓子なんかあげないで。それに、のどに詰まらせたりしたらどうするの?」 奥さんは呆れた様子で小百合ちゃんを見る。
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