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辺りがすっかり暗くなった真夜中に、クロは家に向かった。
もう子供たちは寝ているだろうし、旦那さんか奥さんが起きていれば、何か餌をくれるかもしれない。
家に戻ったクロの目に飛び込んできたのは、それまで見たことのない光景だった。
家からは炎があがり、煙がもうもうと立ちのぼっている。辺りは熱風に包まれ、近付くことができない。
何が起きたか分からず、クロは叫んでいた。
「誰か、あの火を消してください!誰か…」
クロはそう叫んでいたが、人間からすれば、パニックを起こした猫が騒いでいるようにしか見えなかっただろう。
やがて、けたたましいサイレンの音とともに、銀色の服を着た人間たちが赤い車からおりてきて、家に水をかけ始めたが、火の勢いは治まらない。
鎮火したときには、もはや見慣れた家はそこになく、黒く焼け焦げた柱や屋根が残されるのみだった。
「まさか、クリスマスにこんなことが起きるなんてねぇ…」
「怖いわあ…」
近所の住人が何を話しているのかクロには分からないが、絶望的な様子は伝わってくる。
みんな不安そうにしているけど、家族はきっと無事だ。逃げて無事に決まっている。クロはそう確信していた。
「お前、確かあの家の飼い猫だよな?」
振り返ると、近所でよくみかけるトラ猫が、心配そうな面持ちでクロを見つめている。
「気の毒に。あれでは助からない。家から誰も出てこなかったからな。」
「そんなはずない!きっとみんな生きてる!」
クロは思わず反論していた。
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