546人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
煙が見えたと思ったら、あっという間に火が出て、家は炎に包まれた。トラ猫はそう説明したが、家族が火災に巻き込まれたことをクロは信じなかった。自分の目で確かめていないから。
「まあ、そう落ち込むなよ。猫は一匹でも生きていけるんだぜ。なんなら、俺が率いる野良猫グループの仲間にしてやるよ。」
クロはトラ猫の言葉など耳に入らなかった。ほんの少し前まで、家族は生きていた。それがもういないなんて、考えられない。
「…家族は死んでない。みんな生きてる。」
クロはかたくなに主張した。
「おい、まだそんなこと言ってるのかよ。いい加減現実を受け入れろって。」
「うるさい!」
クロは叫ぶと、その場から走り去った。
近所の公園に行くと、植え込みの影に身を潜めた。冬の冷たい風が体に当たる。
外で寝るのはあの時以来だ。まだ子猫だった頃、粗末なダンボールに入れられ、2匹の兄弟と一夜を過ごしたあの夜…
夜が明けると、ほかの兄弟は力尽きて死んでいた。悲しくて鳴いているところを、当時小学生だった小百合ちゃんが拾ってくれたのだ。
ダンボールの中で過ごした一夜の記憶をかみしめながら、クロはクリスマスの夜を公園の片隅で過ごした。
最初のコメントを投稿しよう!