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しばらくすると、雨がやんだ。クロは冷蔵庫から外に出る。
雲の間からは日がさし、湿った土の香りが辺りに漂っている。
クロは捨てられた冷蔵庫の上で、せっせと毛繕いをしていた。
ふと、何かの気配を感じて、クロはとっさに冷蔵庫の裏に隠れる。また、荒っぽい性格の野良猫がケンカを売りに来たのかもしれない。
冷蔵庫の影からそっと様子をうかがった。
空き地の前に、一人の女性が立っている。
小百合ちゃんだ!!
一目見てクロは確信した。1年ぶりに見る小百合ちゃんは、背が伸びて顔もずいぶん大人っぽくなっている。人間って、こんなに早く成長するんだっけ?
でも、子供のように純粋で無垢な顔は、間違いなく小百合ちゃんだ。
小百合ちゃんは、誰もいない空き地にたたずんでいる。
「小百合ちゃん、小百合ちゃん!久しぶりだね。ずっとここで待ってたんだよ!」
女性は振り向くと、冷蔵庫の影から突然現れたクロに戸惑っている様子だった。
そうか、人間には猫の言葉が分からないんだっけ。でも、僕のことは覚えているはず。
「小百合ちゃん、ほかのみんなはどこ?陽介くんは?お父さんとお母さんは?」
言葉が通じないと分かっていても、クロは必死に話しかけた。
「ごめんね。私は、小百合ちゃんじゃないの。」
女性はしゃがみ込むと、神妙な面持ちでクロに告げた。
「どう説明したらいいかしら。あなたの家族を連れて行ったのは、私なの。」
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