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「いずれ、ってそんな…」
「上様はな、わらわが退出するときに『では、また』と言わはったんや。また、ということは次があると言うことやろ?」
…それだけで、わらわは明日からの日々を生きてゆける。
そう、言い残して孝子さまは中の丸に戻っていった。
そのお姿は、あたしが初めて会ったときの頼りないお姫さまではなくて、すっくと背筋が伸びたひとりの女性になっていたと思う。
たぶん、これでいいんだよね。
ここは江戸時代の大奥。
あたしが17年間過ごしてきたあっちとは、時の流れるスピードが違う。
ふたりの心が、江戸城の森を越えるには、もうちょっと時間がかかるんだよね、きっと。
あたしが、それを見届けることはできないけど…。
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