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 一つの激昂が運命の歯車を無惨にも狂わせた。日常を当たり前に過ごしていた日々も終わり。僕は自らの意志で用意されていた人生(れーる)を避け、舗装も何もされていない凸凹の砂利道を歩き始めた。いや、砂利道みたいなそんな生易しい物ではない。憎悪と血に塗れた、そんな薄汚い道。そうだ、あいつを殺す為にこの道を選んだのだ。生きる亡霊として。  自分の過去は捨てた。自分の名前、生い立ち、性格、知人友人、親さえも捨てた。一つだけ捨てられなかったもの。それはあいつに対する復讐心。  僕はただの復讐に燃える亡霊なのだ。それ以外は必要ない。この古びたアパートの四畳半しかない狭い部屋も直に捨てる。だから家具や僕の存在を示唆するような物は置かない。ここはただ身を隠す為に利用しているだけ。僕には帰る場所など必要ないのだから。
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