選択

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 僕は手に握るバタフライナイフに力を込める。大丈夫、僕は落ち着いている。後少し、後少しなんだ。僕は足に力を込めるとそれを一気に爆発させ、猛然とあいつへ襲い掛かった。  刹那。乾いた銃声が中華街の薄汚い裏路地に響き渡った。あいつの発砲した9mmパラベラム弾が僕を撃ち抜いたのだ。  自分の胸に手を当ててみる。そこからは真っ赤な血が溢れ、僕の手を血で染めた。僕は思わず笑った。  そうか、全部捨てたと思っていたけれど人間である事は捨てられてなかったんだな。  僕は復讐に燃える亡霊ではなく、ただ復讐に燃える普通の人間だったのだと気付いた。涙が頬を伝う。嬉しい、楽しい、悲しい。無くしたはずのものが僕に戻ってきた。  銃声が二発三発と続けざまに鳴り響き、僕の体に風穴を空けていく。僕の復讐は失敗に終わったのだ。    もしあの時、道を間違えなければ僕は真っ当な人生を歩めたのかな。僕の選択は間違っていたのだろうか。  消えゆく意識の中で僕はもう一度選択する。
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