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まさかロボ……な訳はないよな。いや、しかし有坂ならやりかねない。瞳の部分がカメラになっていて――と、思考を張り巡らせている最中、その猫はあろうことか箱から飛び出した。
身構える俺の横を平然と過ぎていく黒猫に安堵したのも束の間、狭い路地には不似合いは大型トラックが、豪快なクラクションを鳴り響かせる。
「な――!」
黒猫は道の真ん中で硬直し逃げる気配がない。未知との遭遇に神経全てが凍りついているのだろうか。
そりゃあ俺だって同じ立場に陥ったら数瞬ほど思考を停止させるだろうが、あいにくと今の俺は路肩の見物客でしかない。割と冷静な判断力ならば残っている。
運が良ければあの子猫の上を華麗に車体が通過するだろう。いや、きっとそうに違いない。
しかし、半ば強制的に決めつけながらもそう簡単に割り切れるものでもなく。
「くそ!」
バッドエンド直行ルートへと脚を踏み出してしまったのだった。
筋肉痛確定だぜ、ちくしょう。
脳内にて悪態を垂れ流しにしながら抱え上げた猫に連動するかのように、俺の脚も迫り来る鉄の箱に対して竦む。
このままでは躱すよりも早く、トラックに体を持っていかれてしまうだろう。
けれども――俺は超能力者だ。トラックの一台や二台ならば……“筋肉痛という代償でどうにかなる”。
だが、そんな俺の勇敢な決心は絡み付いた何かに妨害された。
枝……だろうか。網のように練り込まれた枝のネットが俺の体を包んだのだ。
そして突然の浮遊感。グッと、ぐずついた曇天がズームアップされる。
その下で、買ったばかりのビニール傘が轢かれた。
「助かったのか?」
思わず猫に話しかけてしまう。別にこの闖入(ちんにゅう)がなくともどうにかなったのだが、重度に筋肉痛に苛まれずに済んだのだから万々歳だろう。
でも、一体誰が――……、
「咲村君の弱み握っちゃった」
「――は?」
割と同じ高さから届いたその声に首を傾げる。
「咲村君ってヤンキーの癖に猫を救っちゃうような人だったんだね」
人様の家の塀に立ち、鉛筆を手にした少女は満面の笑みでそう言った。
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