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「何でそんな服を?」
峰ヶ丘には一応指定の制服が存在する。男女ともにありふれた紺色のブレザーだ。一応と言ったのはこれまた一応、身嗜みに関してはある程度の自由が許されているからである。
ただし、大半の人間は制服を着用しているし、奇抜な髪色に染める輩も早々いない。だからこその自由だ。
それにしたって黒を基調にした重苦しいこの服装は、学生としてどうなのだろうか。更に、今気づいたのだが、髪がやたらと長い。
軽く足首に届く黒の長髪だ。下手をしたら自分の髪を踏んで転ぶ、という究極のドジを発動出来そうなほどである。
「チロルの下僕だからメイド服なのだっ。このバーカ! バーカ!」
低級な悪口が耳朶を打った。仲村には悪いが、そんな挑発に乗ってしまうほど俺は低レベルな人間ではない。
怒りを呑み込み、冷静に切り返す。
「お前も何か弱みを? もしかしたら長谷川……さんも?」
下僕という点にピンと来たのだ。だとすれば、妙な仲間意識を芽生させることも可能かもしれない。
「長谷川君はイケメンなのに実はオタクなの」
また、どうでもいい弱みだ。くだらないと吐き捨ててもいいかもしれん。それなのに長谷川が頬を朱色に染めるから、思わずドキリとしてしまったぜ、ちくしょう。
初めに断っておくが、そっちの気はない。断じてだ。
「で? 仲村は? どうせまたくだらない弱みなんだろうけど」
「七海はオレの机でオナってたんだよ」
「エヘヘ」
……小学生とヒーローごっこをしていたら、実は空手のチャンピオンでした。というオチくらいヘビーなアッパーを叩き込まれた気分だ。
平然と言ってのける有坂も有坂だが、長谷川と同じく頬を染め上げる仲村も仲村だ。もっと焦れよ、頼むから。
「有坂の一人称が“オレ”な理由を訊いていいか?」
「突然だな……オレか? んー宇宙人だから」
「はあ? またそんな気がする的な詐欺か?」
「そんな訳あるかよ」
「じゃあどこの星の宇宙人なんだよ?」
「え……? め、いオウ星辺りな気がする」
まあいっか。
そんな駄目人間じみた天の声が聴こえた気がした。
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