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それはまだ里に居た頃だった。
「百合!待ってくれ、百合!!」
かすがは目の前を歩く青年に声を掛ける。
だが、彼はかすがを無視して歩みを止める事はない。
「百合っ!!」
かすがは百合に勢いよく抱き付いた。
そして、行くなと言わんばかりに抱き付く力を込める。
「・・・離せ、かすが」
百合の冷めた声が耳に届くがかすがは聞き入れない。
そんなかすがに百合は歩みを止めて黙り込んだ。
「お前が、お前が居なくなったら私は誰に技を習えばいい!
お前以上の者など・・・この里には居ないのに・・・」
そこまで紡いでかすがは一旦言葉を切る。
そして、伝える必要がないと思っていた事を口にした。
「私は私はお前が好きなんだ!
だから、だから「知るか」!」
かすがの言葉を冷めきった百合の言葉が遮る。
声色の冷たさにかすがは怯えながら百合を見た。
「お前の感情に何故俺が縛られねばならん。
俺はお前の事を何とも思っていない」
ギロリ、と鋭い視線で百合は射殺すようにかすがを睨む。
百合の視線の鋭さに気圧されかすがは百合から離れ両目に涙を溜める。
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