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風の強い日だった。
鶴岡陽斗(つるおかはると)は、高校を今日も早退しあてもなく土手を歩いていた。
町を南北に貫く川の土手に整備された遊歩道は、陽斗の数少ない『行き場』だった。
公園として開放されている河川敷では、どこかの保育園の子供たちが保育士と鬼ごっこに興じている。
近くの草むらでは工事現場の警備員が午睡中だ。
午後の日差しは暖かく軟らかかった。
空があり川があり何気ない日常がそこにはある。
この一見退屈なありふれた雰囲気が陽斗は好きだった。
「……!」
ふいに強い向かい風が吹いてきた。
陽斗は堪えかねて立ち止まる。
その足元へ、コロコロと帽子が転がってきた。
反射的に拾い上げる。白い女性物の帽子だった。
陽斗は、手にしたそれを何となくじっと見つめた。
「…見ぃ~つけた!」
その時だった。女の声が陽斗にかけられたのは。
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