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女将はかなり不機嫌だった。
内心、面倒臭いと思いながらも頭を下げ向かいに座る。
彼女の部屋は何時も煙管の煙が充満しており、眼と鼻の奥が痛む。
私に残る吉田様の薫りは、これで全てかき消されただろう。
「今夜の、壬生狼の宴会にお瀧も行っとくれやす。」
吐き出される煙は、彼女の口臭と混じり、すえた臭いがする。
「はい。」
素直に頷けば、女将は驚いた表情になった。
「嫌がる思うたのに、えらい素直やねぇ。
吉田様が贔屓にしてくれてはるから、壬生狼は嫌いなんやと思うとった。」
口のなかだけで笑う女将の笑い方に、私のこめかみはぴくりと反応した。
「女将さん、壬生狼ではなく新撰組です。」
なんとなく、吉田様の名を出されたことが嫌だった。
吉田様も、よく知らぬ新撰組も、小馬鹿にしているように聴こえる。
女将と話すことが苦手な理由のひとつは、彼女のこういうところだ。
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