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私は吉田様の事が好きなのだ。
飄々としており、掴みどころのないこの人が。
吉田様は、女朗としてではなく、ひとりの女で居させてくれる。
何度も夜を過ごしているのに、抱き締める以上の事をしない彼に、抱かれたいと思った。
理由なんて無い。
こんな気持ちになるのは、初めてだった。
泣き止んだ私は、恥ずかしさから顔を上げられずにいた。
そんな私に気付いているらしい吉田様は、咽の奥で笑っている。
それでも顔を上げずにいると、そのまま躰が倒された。
髪が乱れないように、丁寧に簪を抜き取られる。
吉田様の長い筋張った指をぼんやりと眺めていた。
「うん。君には此方のほうが似合うよ。」
私の頭には、飴色の簪がさされていた。
吉田様からの贈り物だと気付くのに、少しかかる。
「…何故?」
戸惑い問えば、彼は困ったように笑った。
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