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お瀧を見ていると、僕にも人並みの幸せというものが掴めそうな気になるから困る。
それほど、お瀧は普通なのだ。
遊女特有の甘ったるい匂いもしない。
淡い石鹸と陽の香りがする。
飾り気のないその姿が、僕の心のどこかに、ぴたりとはまる。
夜を重ねる度に、僕を見つめる瞳が変化していくのが分かる。
逢うたびに、惹かれてゆく。
だから、お瀧の傍にいるといつも落ち着いていられる。
初めて人を斬って以降、こんなに心穏やかにいられたことがあっただろうか。
「お瀧」
名を呼べば、伏せていた瞳が震えながらこちらを向く。
僕は今、お瀧にはどう映っているのだろう。
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