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まだ目覚めていない街に、人通りは無かったが、男は追ってこない。
薄暗いその場所から、鋭く目を光らせていた。
私は慌てて廓へ戻り、私室に駆け込んだ。
部屋では、ちょうど禿が蒲団を片付け終えていた。
「あ、お瀧ねぇさん。」
振り返った禿に、私はつい冷たく当たってしまう。
「もう二度と、こんなことは辞めて。」
「え?」
「新撰組の客は、二度と取りません。
来ても、絶対会いません。
覚えておいて。」
「……永倉様もどすか?」
「当然です。」
黙り込む禿を振り向けば、小さな体全部で、私を睨んでいた。
掴まれていた腕も、打たれた頬も、痛みは治まらなかった。
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