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いつも以上に気乗りしないまま、化粧を始める。
まだ、頬には紅い火傷の痕が残っているので、念入りに白粉を塗る。
薄暗くなれば分からない程度になれば、とりあえずは安心だ。
客に根掘り葉掘り聞かれるのは、煩わしことこの上ない。
鏡に写る憂鬱そうな遊女は、今日は誰に抱かれるのだろう。
そんなことを考えながら、帯をほどく。
仕事用の着物に着替えるために襦袢姿になれば、不意に吉田様に触れられた記憶がよみがえった。
傷だらけでぼろぼろな私の躰に、まるで宝物のように大切に触れる吉田様に。
襦袢越しに触れた、しなやかな指先、視線、その全てが欲しいと思った。
あのとき、そんな浅ましい自分を律することができて本当に良かった。
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