殺人者、自首しました

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――なぜ、自首しようと思ったんですか? 「重みが……」 ――重みですか? 「そうです。重みが“にていた”のです」 ――にていた、とは? 「妻に、です」 ――妻に? 「はい。あぁ、アナタには何の事かわからないかもしれませんが……」 ――わかりませんね。もっと具体的にお願いします。 「私は人を殺して、その死体を背負って山に向かいました」 ――埋める為に、ですね。つまりアナタは死体を隠して逃げるつもりだった。 「そうです」 ――繰り返しになりますが、なのになぜ自首しようと? 「病気で死んだ妻が……まだ生きていた時、私が寝ているとよく上に乗ってきたんです」 ――愛されていたのですね。 「そうです。私も愛していました。私の上に乗る妻の重み……、その重みが、生きてる妻の、守るべき愛しい人の重さ。私の責任の重さ。そして、幸せの重さなんだと思っていました」 ――その重みが“にていた”のですね。死体の重さと。 「そうです!生きてる妻の重さと、死体の重さは“そっくり”でした」 ――それで自首を決意したんですか? 「はい。死体を背負って“幸せの重み”を思い出して、私は、何をしているんだと……」 ――なぜ、見ず知らずの彼女を殺したのですか? 「妻に“似ていたから”です」 ――似ていたから殺すのですか? 「そうです。妻はもういないのに、似ている“ソイツは幸せそうに”笑っていた」 ――それだけの理由で? 「それだけ?それ“だけ”ですか?だけ?充分な理由ですよ」 ――死体は重かったですか? 「はっ?」 ――死体は“重かった”んですか? 「アナタ、何を言いたいんですか?」 ――背負っていた時、奥さんに“似た重みを”どう感じたのか知りたいんですよ。 「それは……重いと感じました」 ――わかりました。質問は以上です。では、失礼します。 「ちょ、ちょっと待って下さい。今の質問、何の意味があるんですか?」 ――本当のアナタが知りたくて。 「はっ?」 ――アナタは自分を正当化したがる弱い人間だ。 「な、なぜそう思う?」 ――奥さんに似た重みが、幸せが“重かったから”ですよ。 了.
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