第一話:榎本真午と申します。

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「お疲れ様、榎本さん。」 「あ、お疲れ様です。」 客がいなくなると、工房の片付けをしていた店長の岩崎さんが、腰のエプロンを解きながら出てきた。 閉店時間だ。 「BGM消してきます。」 「うん、よろしくね。」 そう言うと、俺は事務所へ向かう。 開け放たれた事務所の中で見慣れた黒い機材を見つけ、ボリュームを下げてから電源を切る。 それから大型掃除機を引きずり出すと、ホールの隅から隅まで汚れを吸い取る。 これが結構腰にくるのだ。 これを女の子にやらせた日には、確実に仕事を辞める子で溢れるだろう。 ガッガッ 「……」 とりあえず、見える範囲は綺麗になった。 …と、思う。 「店長、掃除終わりました。」 「いつも早いね、ありがとう。 もう上がってもらっていいよ。」 「はい、お疲れ様でした。」 「はーい。」 タイムカードを入れて、次のシフトを確認する。 「明日、16時… 一緒の人は……いた。 西藤さんか…」 西藤さんは最近入ってきた、一つ年上のアルバイト。 入って2ヶ月経とうとしているのに、なかなかどうして不器用さが否めない不思議な人。 持ち前の明るさで失敗をバネに出来る前向きな人。 でも失敗癖が抜けなくて、未だに俺と同じ日にシフトを組まれるやっぱり不思議な人。 「…着替えるか」 呟くと、俺は更衣室の中へと消えた。
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