着手

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 矢内係長は、黙って逢坂達のやり取りを聞いている。 「そこに現れたのが武田 豊三、年齢六十歳。彼は……」  一通りの説明をして、宮田は野次馬達の中に消えた。早朝という事もあり、大した目撃情報は獲られないだろうが、これも刑事の仕事だ。  遠くに貨物船であろう汽笛が『ボー』っと低く潜もった音を鳴らした。それを合図にするかのように、鑑識のジャンパーを纏った男が一人、こちらに向かって手招きを寄越した。 「行きますか」  そう言って、逢坂はコートの襟元に手をやりながら、規制線のテープを潜り抜けた。
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