王様

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羊子が死んだ。 親戚たちが羊子を囲んでいる。 昨日羊子と喧嘩をした。学校の帰り道に羊子が通せんぼしてきた。僕は掃除をサボった奴らの代わりに先生に怒られてとてもイライラしていたから、カッとなって怒鳴った。羊子はわらった。「行灯河へ船を流しに行きましょう」と、言った。僕は何をのんきに、と余計に腹が立って羊子を突き飛ばした。そのまま走って帰った。 そのあと羊子は死んだ。河に沈んでた。 きっと一人で船を流しに行って足でも滑らしたんだろう。 柩の中で動かなくなった羊子を目の前にして言い訳を考える。別に、僕は君のことが嫌いで突き飛ばしたわけじゃないんだ。君がとおせんぼなんかするからこうなったんだ。罪悪感と自意識の隙間には身じろぎ1つしない僕がいる。僕はもじもじと指先で背徳感を弄ぶ。 羊子の行く先は誰も知らなかった。 みんな知らないというから、僕も知らないと言った。僕は悪くない。 僕は泣いた。 人が一人死んだというのに、それでも僕は何を恐れていると言うのだろう。あの時、一緒に行けばよかった。 あの時の僕といったら、どんなにくだらないことだろう。 13歳の動かない彼女はもう僕を責めたりしない。花束に沈んでゆく。 僕は弱虫で卑怯で小さい人間だ。たった1人の友達も救えない、小さな人間だった。
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