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私の名前は『睦月 千歳(むつき ちとせ)』
体を動かすのが好きで、勉強が苦手な何処にでも居る普通の女の子。
そんな私が体験した不思議なお話をしたいと思います。
ある日、いつものように学校から帰った私は、お母さんに『ただいまー』と一言かけた後、自分の部屋に向かった。
見飽きた風景を目の端に映しながら歩き、自分の部屋の前に辿り着く。
「………?」
中に入るためにドアノブを握ったのだけど、何故か生温かく感じた。
まだ1月も半ばに差し掛かったばかりだというのに……どうして?
不思議に思いながらもそれを半回転させ、ドアを開けた。
部屋に入り、荷物を下ろし、制服から部屋着に着替えた時だった……。
「っ!?」
それは、視線のような何か。一瞬、何者かに見られているような感覚。
反射的に振り返る……けれど、固く閉ざされた押し入れの扉が存在するだけ。周りを見回しても変わった所は無い。
当然、室内には私以外に誰も居ない。そして、先程の視線も既に感じない。
「気のせい……だよね」
私の呟いた言葉は溶けるように空間へ吸い込まれ、辺りに静寂が訪れる。
無性に怖ろしくなった私は、逃げるように部屋を後にした。
その後、夕食を済ませ、リビングでテレビを見て、お風呂に入った。
お風呂から出て歯磨きを終えた私は、何とはなしにソファーへ腰を下ろす。
先程部屋で感じたことが未だに頭の中に残っているため、まだここに居たいと思ったのだ。
けれど、そんな私を見たお母さんは『明日早いんでしょう? もう寝なさい』と言ってくる。
確かに、明日も学校があり、私は寝起きが悪くて寝坊の常習犯。だからお母さんが言っていることは最もである。
あの視線の話を両親にしようとも思ったけど、鼻で笑われるだろうと思い、止めた。
結局、反論出来ずに無言になった私は嫌々部屋に向かうしかなかった。
自室への道のりは憂鬱で、足が重く感じる。
フローリングの廊下を進み、突き当りを曲がった所にある階段を上がり、左手側に見える。歩数で言えば数十歩。時間で表すと二十秒も掛からない距離。
「着いちゃったか……」
ドアの前に立ち、逡巡。
まださっきの温かさを思い出せる。自分の頭が何かを訴えているような気さえしてしまう。
「って、いやいやいや、何怖がってるのさ。誰も居なかったし、何も無かったでしょ?」
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