私に代わって……

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自らに言い聞かせ、無理矢理手を前に伸ばし、ドアノブを握った。 「……冷たい」 伝わってきた季節通りの冷感。いつも感じている冬のドアノブだった。 頭の中にあった恐怖は消え去り、ホッと胸を撫で下ろす。 安心した気持ちのままドアを開けて中に入る。部屋の中は先程の気配を微塵も感じさせない程にいつも通りだった。 「やっぱり気のせいだったんだ……良かった~」 心が落ち着いた私はベッドに身を投げ、寝転がりながら近くに置いてあった読みかけの本を手に取り、ページを捲り始めた。 しばらくして、ふと時計を見ると二つの針が頂点を指していた。 どうやら夢中になっていたらしく、既に就寝予定時間をオーバーしている。 「ふぁ~……寝よ」 本に栞を挟み、電気を消した。 辺りが暗闇に染まると、先程感じた視線のことを思い出す。 もしかしたら……この部屋に誰か潜んで居るんじゃ……。 「まさかね……」 そんなことを考えたら急に怖くなってきた。 私は布団を被り直し、目をキュッと瞑る。 普段余計な事を考えるとなかなか眠れない私。けれど不思議なことに、今日はすぐに眠気がやってきたため、逆らわずに意識を手放した。 「………」 寝付いてからどれくらい経ったのか。 不意に妙な気配を感じた。何だろう? 目を開け、ゆっくり周りを見渡しても部屋には誰も……いや、居る。 「………」 私の寝ているベッドの横に立っている人影。 家族ではない。かといって、泥棒等とも違う気がする。 そもそも『これ』は人なの? 人影は静かに見下ろしていたが、私が目を開けた事に気付いたのか、動き出した。 首と膝の後ろへ手を滑り込ませて抱き上げられる。俗に言うお姫様抱っこをされた。 私は抵抗しようと身体を動かした……はずなのに全く動かない。 これは、金縛りで動けないのだと、頭では何故か理解出来ていた。 しかし、様々な疑問は浮かぶ。 この人影について。私をどうする気なのか。最近体重増えた気がするから重くないだろうか。こんな形で女子の憧れを実体験したくなかった等々。色々なことが間欠泉の如く湧き上がり、脳内を満たしていく。 頭がパニック状態な私を抱いた人影はベッドから遠ざかっていく。 目だけは自由に動かせるので、視界に入った時計を眺めた。 (2時かぁ……迂濶だったかなぁ……) 草木も眠るなんとやら。こういった類いのモノが一番活動しやすいとされる時間帯。
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