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今更だけど『起きていたらこんなことになっていなかったかもしれない……』などと無駄な考えを巡らせていると、人影が部屋のとある場所で足を止めた。
「………」
そこは、視線を感じた場所。今はあまり使っていない押し入れ。
人影は私を抱いたまま器用に押し入れの引き手に手を掛け、音を立てないように開ける。
そして、その中に私を下ろし、人形のように座らせると顔を近付けてきた。
「……ここに居て」
(えっ?)
私の耳元で、辛うじて聞き取れるくらいの小さい声で囁き、顔を離す。
私は人影を眺める。
部屋は暗くて見にくかったけれど、辛うじて顔が見える距離に居たから分かった。
この人影が……私にそっくりな姿をしていることに。
その事実を知り、更に混乱する。そんな私を置き去りにした人影が押し入れから出て行く。
そして、戸は閉められた……が、偶然なのか、意図的なのか、漫画の背表紙一冊分だけ開いていた。
その隙間からはさっきまで私の寝ていたベッドが見える。
狭い間を通じて人影の行動を凝視していた……いや、それしか出来なかった。何せ、身体は動かせないし、声も出ないのだから。
人影はしばらく部屋の中を行ったり来たりしていた。時々衣擦れの音が聞こえてくる。まるで、服でも着ているような……。
そして用が済んだのか、徘徊を止め、ベッドに寝転がって布団を被った。
(そこ、私のベッド……しかも私の寝間着まで着てる……)
ツッコミをするけれど、当然声にならなかった。
どうしてこうなったのだろう? 私、何かした?
とりとめのない自問を繰り返す。あまり意味が無さそうに思えたが、不意にあることを思い出した。
そういえば昔、ここに人形を置いた気がする……。
それは、デパートや百貨店等で売られているような何の変哲も無いただの人形。
買ったのは……そう、小学校一年生の時だったと思う。
当初、私は人形を妹のように可愛がっていた。
確か、ここに置いたのは小学校高学年になった頃かな?
それまでは、どこへ行くにも一緒で、離れることなんてなかった。
でもある時、友達にバカにされて……それでここに置いて……今まで忘れていた……。
(はぁ……)
大切な『友達』を忘れていたなんて……怨まれても仕方がない。
きっと、今度は私があの子と代わる番なのだろう。
でも、これで良いかな……私があの子にした仕打ちなんだから……。
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