4人が本棚に入れています
本棚に追加
握り返された手は私と同じぐらいの大きさなのに、こういうときは不思議と大きく感じる。
力強い応援を更に握り返した手で伝えてから、気を落ち着けるために大きく深呼吸して、私は空いた手で取っ手を掴んだ。
そのタイミングを見計らったかのようにドアが向こう側から一気に引き開けられるとは、誰も予想できないだろう。
骨と木が強くぶつかったかなりイイ音と同時に、私は顔を押さえてうずくまる。
頭がぐらぐらして、額が割れるように痛い。
「ちょーどいいところに帰ってきたわ、オーサー!」
絶妙のタイミングで戸を開けたのはオーサーの母親で、マリベル=バルベーリという女性だ。
白無地の腕と首まで覆うネックシャツを着て、緑のチェック生地をパッチワークしたロングのふわりと広がるスカートを履き、腰をスカートと同色の緑の幅広の布で巻いている。
巻いている布は止めるのではなく、内側に入れ込んでいるのだ。
さっきの露天商のヨシュが例に挙げたように、マリベルはいつも重いと嘆くほど立派な胸を持っている。
それでいて腰は細くて、私と変わらないが尻は腰と胸囲の中間程度だというのが本人談だ。
実際はもっとありそうだけど、怒られるので私もオーサーもつっこまないことを暗黙にしている。
「アディを探してちょーだいっ。
マラカスさんが、アディが新しくきた神官さんと喧嘩して、旅に出るって言ってたのを聞いたらしいのっ」
小鳥が囀るのに似た、高いけれど柔らかな声が泣きそうなのを堪えながら、オーサーの両肩をしっかり掴み、一気にまくし立てる。
「母さん、アディなら、そこにいるよ」
苦笑しながらの息子の言葉で、ようやくマリベルは私に気がついてくれた。
掴んでいたオーサーを突き放し、しゃがみこんでいる私をいっぱいに涙を湛えた瞳で見下ろす。
最初のコメントを投稿しよう!