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下手をすると私やオーサーの姉に間違われるマリベルはスタイルの良い身体に小さめの顔がちょこんと乗っていて、小さいながらもはっきりと通った鼻筋が顔に陰影を作っている。
白い肌の綺麗な彼女は、四十歳を超えているとは思えないほど若々しい人だ。
濃すぎず、薄すぎない色の小さめの口元は、化粧をしていないのにかすかに膨れ、上から降り注ぐ陽光で瑞々しい光を返す。
興奮して上気した赤い頬の上には、オーサーと同じ夜空色の瞳が乗っかり、真っ直ぐに私を見る。
先ほどまで吹いていた風もマリベルの様相に圧されて、なりを潜めてしまっている。
だから、普段なら風に煽られて邪魔だとひとつにまとめているオーサーと同じ金色の長いウェーブがかる髪が縛られず、そのままであるというのに、腰の辺りで彼女に合わせて小さく震えるだけだ。
「ごめんね、アディ!
あの神官さんにはちゃんと私から話しておくからっ」
私には何故かこのマリベルに拾われた記憶がある。
小さい頃のことなんて殆どの出来事が朧げで、親に棄てられた記憶さえもないのに、それだけが鮮明な映像となってあるのだ。
赤黒い闇の中にいた私の前に、暖かい光と温もりをくれたマリベルが手を差し延べてくれた日のことを、今でも私は忘れたことなどない。
マリベルが言葉を続ける前に、両手で彼女を抱きしめる。
ふわりと肩口に私の鼻腔をくすぐるのはマリベルが得意とする焼きたてのパンの香りで、それを自然に吸い込む。
「ごめん、マリ母さん」
拾われた恩も、育てられた恩も忘れたことは一度もない。
私に家族を、温もりをくれたことを本当に感謝している。
「きっかけではあるけど、考えなかったわけじゃないの。
だって、このままじゃいつまでも私はマリ母さんの本当の娘になれないじゃない」
かすかにマリベルの体が震え、次には何かを合点したように私の背中を柔らかに抱きしめ返してきた。
「何言ってるの、アディは誰が何と言おうとうちの子です」
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